大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和40年(行ウ)3号 判決

鹿児島県川辺郡川辺町平山七〇〇九第地

原告

川辺勤労 音楽協議会

右代表者委員長事務代理

辰野良夫

右訴訟代理人弁護士

千場茂勝

小堀清直

右訴訟復代理人弁護士

亀田徳一郎

同県同郡知覧町郡六、二一二番地

被告

知覧税務署長

門松安之

右指定代理人

手島奉昭

野崎忠男

吉田和夫

中村幸雄

水上勝美

坂本清海

右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第三号入場税課税処分取消請求事件について、当裁判所は、昭和四年六月一七日終結した口頭弁論にもとづき、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者が求めた裁判

原告

「(一) 被告が別表の処分の日欄記載の日付で、原告に対してなした同表の入場税額欄記載の入場税額決定処分、および同表の無申告加算税額欄記載の無申告加算税賦課処分は、これを取消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

被告

主文と同旨の判決

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は、日本民族の進歩的音楽運動の伝統を受継ぎ、海外諸民族の民主的文化的遺産に学ぶことによつて会員の人間性を高めその連帯性を強めるとともに、社会の進歩に役立つ民族的民主的大衆的な音楽文化を創造育成し日本文化の発展に寄与することを目的とし、川辺町およびその周辺に住む勤労者、学生、一般市民らの音楽愛好家のサークルを基礎として昭和三九年二月に結成された団体で「川辺勤労者音楽協議会規約」に基づき、議決機関として総会、代表者会議、委員会などの機関を設置し、委員長ら会の役員を選出し、事務局を川辺町内に置いて会の運営に関する事務を担当させ、前記目的のため定期的音楽会(いわゆる例会)を含む諸活動をしている人格なき社団である。

(二)  原告は別表の上演日時欄記載の日に、同表の上演場所欄記載の施設において、上演種目欄記載のとおりの音楽会(以下「本件例会」という)を開催したところ、被告は、本件例会が入場税法第二条に定める主催者が行つた催物に該当するとして、同法第三条にもとづき原告に対し、別表の処分の日欄記載の日付で、同表の入場税額、無申告加算税額各欄記載のとおりの入場税額決定、無申告加算税賦課処分(以下一括して「本件処分」という)をした。

そこで、原告は昭和三九年五月三〇日被告に対し本件処分に対する異議の申立をしたところ、被告は、同年八月二六日右異議申立を棄却したので、原告は更に同年九月二四日熊本国税局長に対し、本件処分についての審査請求をしたが、熊本国税局長は昭和四〇年六月三〇日右審査請求を棄却する裁決をした。

なお、原告が本件例会について入場税法所定の申告をしなかつたことは認める。

(三)  しかしながら、被告が原告に対してなした本件処分は次の理由により無効である。

(1) 原告は租税義務能力を有しない。

(イ) 我国においては、人格なき社団はたといそれが社団としての組織を具え社会的実在として活動していても、人格き社団自体には私法上、公法上の権利能力を認めない法制を採用している。

被告は民事訴訟法第四六条が人格なき社団財団にも訴訟当事者能力を認めていることから、実定法上人格なき社団も特定の法律関係について権利義務の主体とされることがあると主張するが、右の規定は人格なき社団に実体上の権利能力を認める趣旨ではない。

(ロ) 租税は納税義務者に帰属している財産を国家権力にもとづいて徴収するものであるから、納税義務者となるべきものは私法上の権利能力を有し、財産権の帰属主体となり得るものでなければならない。たとい税法上人格なき社団に納税義務を、負わせることを規定しても、人格なき社団は私法上財産権の帰属主体となり得ないのであるから、その履行は法律上原始的に不能である。したがつて、私法上権利能力がなく財産権の帰属主体となり得ない人格なき社団は納税義務の主体ともなり得ないものといわなければならない。

(2) 人格なき社団は入場税法第三条にいう「経営者または主催者」に含まれず、したがつて、入場税の納税義務者ではない。入場税法第三条は興行場等の経営者または主催者は、興行場等への入場者から領収する入場料金について入場税を納める義務がある旨規定しているが、入場税法上には左納税義務の主体である経営者または主催者に人格なき社団が含まれることを明示した規定はなく、かつ、同法第二三条は申告義務等の承継に関し、また同法第二五条ないし第二八条の罰則も経営者または主催者が自然人または法人である場合については詳細な規定をおいているにかかわらず、人格なき社団に関してなにも規定していないことからすれば、同法第三条にいう経営者または主催者には人格な社団は含まない趣旨と解するのが相当であり、したがつて原告は入場税の納税義務者に該らない。

被告は、同法八条の別表の列挙されている団体が一般に人格なき社団または財団であることからみて、同法第三条にいう経営者または主催者には人格なき社団が含まれるものと解釈すべきであると主張するが、右第八条の別表に列挙された団体でも法人組織のものがあるのであるから、同条が予定している団体は法人格を有する団体だけであると解釈できるし、そもそも被告の主張は明らかに類推解釈ないしは拡張解釈というべきものであるところ、租税法規についての類推解釈拡張解釈は憲法第八四条が定める租税法律主義と相容れないものというべきであるから、結局、入場税法第八条の別表の記載から人格なき社団の納税義務を理由づける被告の主張は失当である。

(3) 仮に、入場税法が人格なき社団にも適用されるものとすれば、同法は憲法第一四条、第八四条に違反し無効である。

(イ) 人格なき社団は私法上、公法上の権利能力を奪われている団体であるから、これに対して納税義務を課することになれば、権利能力を付与されている法人に比べて人格なき社団が著しく不利益に取扱われることになり、法の下の平等を明示した憲法第一四条の趣旨を没却することになる。したがつて、入場税法が人格なき社団にも適用されるものであるとすれば、同法は憲法第一四条に違反し無効であるというべきである。

(ロ) 憲法第八四条はいわゆる租税法律主義を明示しているが、その趣旨は単に法律なくして租税なしという原則を定めているだけではなく、納税義務者、租税方法等についても法律で明確に定めることを要するという趣旨をも含むものである。したがつて、入場税法が人格なき社団にも適用ありとすることは、同法がその趣旨を明確に定めていない点において、また人格なき社団であるか否かの認定が税務官吏に委ねられることになる点において、憲法第八四条に違反し無効であるといわなければならない。

(4) 仮に、人格なき社団が、一般的に、入場税法第二条、第三条にいう「主催者」となり得るものであるとしても、原告が定期的に行つている音楽会(以下「例会」という)の性格、実態からみて、例会は入場税法第二条にいう「催物」には該当せず、また、原告は同法第二条、第三条にいう「主催者」に該らない。

原告の運営は、会員を職場単位、学校単位等に幾つかのサークルに分け、そのサークルの活動を基礎として行われているが、例会の出し物、出演者はサークルの意見を集約して決定され、例会々場の設営整理券の交換、ドアマン、座席案内、楽屋手伝、例会終了後の跡片付等はすべて会員自身が順番に担当しており、また例会に参加し得る者は会員のみに限られており、後記のとおり入場料金も徴収していないのであるから、原告と例会に参加する会員との間には主催者と観客という関係は存在せず、したがつて、原告の行う例会は入場税法第二条にいう「催物」ではなく、また、原告は同法第二条、第三条にいう「主催者」に該らない。

また、例会の際の会場の賃貸借契約、出演者との出演契約等は、原告の代表者が会員全員の代理人として行つており、この点からみても原告と例会に参加する会員との間には主催者と観客との対立関係は存在しない。

(5) 原告が行う例会には入場料金はない。

例会に要する経費は会員が毎月拠出する会費によつて賄われているが、右の会費は、例会のみのために徴収されるものではなく、原告が行う諸活動、例えば合唱、フオークダンス、社交ダンス、音楽講座、例会の合評会等の費用にも充てられるものであつて、原告の全活動に要する経費の分担金であり、入場税法第二条にいう「入場の対価」でないことはいうまでもなく、例会参加者から会費のほかに入場料金を徴収してはいないから、仮に原告が入場税法にいう「主催者」で、例会が「催物」に該当するとしても、入場税の課税対象である入場料金が存在しない以上、原告が入場税を納付する義務を負わないことはいうまでもない。

(四)  以上のとおりで、被告が原告に対して行つた本件処分は違法無効であるから、原告は本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

(一)  請求原因(一)のうち、原告が人格なき社団であることは認めるが、その余は知らない。

(二)  同(二)は認める。

(三)  同(三)はいずれも争う。

三  被告の主張

(一)  原告の請求原因(三)の(1)の(イ)の主張について

人格なき社団は社会的実在としてその構成員とは独立した存在であり、その活動の実態は法人格を有する社団と異るところのないものである。したがつて、人格なき社団に対して実定法上特定の法律関係について権利義務の主体となり得る地位を与えることは可能であり、民事訴訟法第四六条が人格なき社団に訴訟当事者能力を付与しているのはその顕著な例である。そして人格なき社団が特定の法律関係について権利能力を有するということは、当該法律関係について人格なき社団が法律関係の主体として取扱われ、その結果生じる権利義務は社団の構成員全員に総有的に帰属するということであつて、人格なき社団が法人格を付与されていないことと特定の法律関係について権利能力を付与されるということとは別段矛盾するものではない。

(二)  同(三)の(1)の(ロ)の主張について

人格なき社団は個々の構成員から独立した社会的存在であり、個々の構成員の個人財産とは別の構成員の総有に属する社団財産が存在するのであるから、これを引当として、その構成員全員に総有的に帰属することとなる納税義務を人格なき社団自体に負わせることはもとより可能である。

(三)  同(三)の(2)の主張について

入場税は消費税の一種であつて、興行場等に入場する者に担税力があるものとみて課税するものであり、その実質的負担者は入場者であつて、興行場等の経営者または主催者は徴税の便宜上入場税を国に納入すべき義務があるに過ぎないものであるから、納税義務者である右経営者または主催者が法人格を有する者であるか否かは重要でなく、入場税法の問うところではない。また、入場税法第八条は免税興行として「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」、「学校の後援団体」、「社会教育法第十条の社会教育関係団体」等一般に人格なき社団または財団として活動している団体を別表上欄に掲げているが、このことからみても入場税法が人格ある者のみを入場税の納税義務者としているものでないことが明らかである。

入場税法第二三条は、納税義務者に課された多数の義務のうち比較的事例の多い個人と法人の納税申告義務の承継や記帳義務の承継について特に規定したもので(なお、人格のない社団等を含むすべての者の納税義務の承継に関する一般的な定めは国税通則法第五条ないし第七条、第一八条、第一九条参照)、入場税法第二五条ないし第二八条は同法に違反した行為のうち、課税権確保の必要性に関する政策的考慮にもとづいて、その一部の違法行為について罰則を定めているだけであり、要するにこれらの法条は行政上の必要性ないし立法政策上の考慮から特別に設けられたものであつて、これらの規定を根拠として入場税の納税義務者に人格なき社団が含まれないものと解釈すべきものではない。

また、憲法第八四条は租税法規の内容が解釈によつて定まることを排斥する趣旨ではないし、前記のような入場税の性質、入場税法第八条等に照らし、人格なき社団を入場税の納税義務者に含めるのがむしろ合理的解釈というべきである。

(四)  同(三)の(3)の(イ)の主張について

現行法上人格なき社団は社会的実在として代表者の行為によつて対外的に活動することを容認されており、その活動の実態は法人格を有する社団法人となんら異ならないのであるから、人格なき社団が自然人または法人と同じように催物を主催し入場者から入場料金を領収する場合にこれを他の法人格を有する主催者と別異に取扱うべき理由はなく、むしろ法人格を有する主催者と同様に取扱うのが法の下の平等原則にいう「実質的に同様の法律関係については同様の取扱いをすべきである」という趣旨に合致するものというべきである。

(五)  同(三)の(3)の(ロ)の主張について

憲法第八四条は租税法規の内容が解釈によつて定まることを排斥する趣旨ではないし、税務官庁の認定の当否は最終的には裁判所の判断によつて決定され、税務官庁の恣意的認定が許容されるわけではないから、原告の憲法違反の主張は理由がない。

(六)  同(三)の(4)の主張について

もともと社団の活動は、多数決原理に従つて会員により決定される社団の意思にもとづいて行われるものであり、その点では法人格のある社団も法人格のない社団も同様であつて、このことと社団が構成員とは別個の独立した存在でああるということとは別段矛盾するものではないし、右の社団と構成員とが別個独立の存在であるという性質は、社団の意思決定に構成員が関与する程度によつて左右されるものではない。

また、例会が原告の主張のような方法で実施されているとしても、社団の構成員として例会の実施に従事する立場と例会の出し物を観賞する立場とは異るものであり、例会の企画実施に参画しているものは一部の者にすぎず、大部分の会員は決定された上演種目や会費額などから、観賞したいと思う例会だけを選択し、会費を支払つて入場するのであつて、その実態は一般の興行の観客と同様であり、この場合、会員は会費を支払うことによつて会場に入場して出し物を観賞する権利を取得し、会場に入場させ出し物を観賞させる義務を負うものは人格なき社団である原告自体であるから、原告と会員との関係はまさに対等の当事者の関係である。したがつて、原告の例会は入場税法上の「催物」で原告はその「主催者」とみるべきものである。

なお、原告は原告の代表者が実際は会員の代理人であるというけれども、この主張は社団の代表者としての法律的地位を代理人と説明しただけのことであり、原告と会員とが別個独立の存在であることには変りない。

(七)  同(三)の(5)の主張について

原告の会費は例会の費用を賄うために徴収されているもので、原告の例会以外の諸活動の費用はその都度参加者から別途徴収されているのであるから、会費はまさに入場の対価である。仮に、原告の会費が原告の主張の使途に充てられているとしても、例会を見、または聞こうとする者は会費を支払わなければならず、会費を支払わない者は例会の会場に入場できないことになつているから、右会費は入場の対価たる性質を有するものといわなければならない。

(八)  以上のとおり、原告が本件課税処分を違法であるとする主張は、いずれも理由がないから、原告の本訴請求は失当でる。

第三、証拠関係

原告

(一)  甲第一、二号証(いずれも写)を提出し、証人遠藤峻同黒江和枝の各証言を援用。

(二)  乙第二十三号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

被告

(一)  乙第一号証の一、二、同第二ないし第八号証、同第九号証の一、二同第一〇号証、同第一一ないし第一四号証の各一、二、同第一五号証の一ないし三、同第一六号証の一、二、同第一七号証の一ないし三、同第一八、一九号証の各一、二、同第二〇号証の一ないし三、同第二一号証の一ないし四、同第二二号証の一、二、同第二三号証、同第二四号証の一、二を提出。

(二)  甲号各証の原本の存在、および原本の成立はいずれも認める。

理由

一、原告が人格なき社団であること、および原告の請求原因(二)の事実は当事者間に争いがない。

二、原告の請求原因(三)の(1)ないし(3)の法律上の主張について、

(一)  原告は、人格なき社団は租税義務能力を有しないと主張するが、人格なき社団( 法人でない社団)も社団である以上社会的には法人である社団と同様の活動をしているのであるから、これに対して特定の法律関係について権利義務の主体たる地位を付与することは理論上何ら不合理ではなく、特定の法律関係について人格なき社団を権利義務の主体とするかどうかはもつばら立法政策の問題に過ぎないものということができ、人格なき社団に課された納税義務は、社団構成員の個人財産とは別個の私法上は構成員の総有に属すると考えられる社団自体の財産によつて、その履行が可能であるから、原告の前記主張は採用できない。

(二)  原告は、人格なき社団は入場税法にいう経営者または主催者に含まれないと主張するが、入場税の実質的負担者は入場者であるが、徴税の便宜上興行場等の経営者または主催者を納税義務者としていると解されることからすれば、人格なき社団が法人格がないというのみで、入場税法にいう経営者、主催者に含まれないと解すべき合理性はないこと、他方、同法第八条は、人格なき社団が催者の主催者に含まれることを前提としているものと解される(これは類推解釈でも拡張解釈でもない)ことからすれば、人格なき社団も同法にいう経営者又は主催者に含まれるものと解すべきで、同法第二三条、第二五条ないし第二八条が人格なき社団に関して規定していないということは、右の解釈を左右するに足りないし、憲法第八四条が、租税法規を合理的に解釈することを排斥するものとは到底解されないから、原告の前記主張も採用できない。

(三)  原告は、入場税法が人格なき社団にも適用されるものとすれば、同法は憲法第一四条、第八四条に違反すると主張するが、人格なき社団が催物を主張して入場者から入場料金を領収した場合に、これを法人格を有する社団が催物を主催した場合と同様に取扱つたからといつて、憲法第一四条に反するものとはいえず、また、憲法第八四条が租税法規の内容を合理的解釈によつて定めることを排斥する趣旨とは解されないから、入場税法に、入場税の納税義務者に人格なき社団を含む旨の明文の規定がないからといつて、同法が憲法第八四条に違反するものとはいえず、また人格なき社団であるか否かの認定は、最終的には裁判所によつて行われ、税務官庁に委ねられているのではないから、右の点においても憲法第八四条に違反するものとはいえないから、原告の前記主張も採用できない。

右(一)ないし(三)のとおり、原告が本件処分の無効理由として主張する法律上の主張はいずれも採用できない(なお、右の諸点については、東京地方裁判所昭和四二年四月一一日判決、行政事件裁判例集第一八巻第四号、三九九頁以下は登載を参照)。

三、原告の請求原因(三)の(4)、(5)の主張について

原告は、原告の例会が入場税法第二条にいう「催物」に該当せず、したがつて原告は同法第二条第三条にいう「主催者」に該当しない旨、および原告の会員は同法第二条の「入場料金」に該当しない旨主張するので検討する。いずれも成立に争いのない乙第二ないし第八号証、同第九号証の一、二、および証人遠藤峻、同黒江和枝の各証言、ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。原告は、職場、学校、地域等を同じくする三名以上の会員で構成されるサークルを基本組織とし、会員にいずれかのサークルに所属することを原則とし、その意思決定機関として、総会、代表者会議、委員会があり、例会の上演種目、出演者の決定、および例会以外のレクリエーシヨン等の行事の決定等を、各サークルにおける会員間の討議を基礎として、右機関における合議によつて行うことによつて、その決定に会員の意向を反映させるよう努めている。また例会会場の設営、跡片付、入場者の整理等の作業、労務等は会員が行つている。しかしながら、原告への入会は、所定の入会金(昭和三九年当時、高等学校以下の生徒、児童を除く一般人は五〇円)と基本会費(原則として一箇月毎に納入することになつており、昭和三九年当時、一般人は月額七〇円)さえ支払えば、誰でも何時でも会員になることができ、ことに、昭和三九年当時においては、例会当日、会場においても入会金、および例会ごとに定められた会費を支払えば、入会を受付けていたので、いずれのサークルにも所属しない会員が存在し、他面、会費を納入しなければ当然に退会したものとされるので、例会の上演物、出演者の如何によつて、例会毎に会員に相当の変動(会員数の点のみでなく、誰が会員であるかという点を含めて)がある。例会会場への入場には、所定の会費の納入と引換えに会員に交付される参加券の持参が必要で、会員であつても参加券を持参しない者は原則として入場できない反面、参加券を持参すれば、実際には会員でない者でも入場できるのが実情である。例会会場の設営、跡片付等は前記のとおり会員が行うが、入場会員全員で行うというわけではなく、入場者の大部分は例会会場においては、もつぱら上演物を観賞するだけである。

右のように認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、原告の例会は、その企画決定について会員が直接、間接に参加し、その実施に附随する作業、労務等が会員の協力によつて行われている点において、一般の興行と異る点があるということはできるが、個々の会員とは別個独立の社会的存在である原告自身が会員である多数人に観賞させるために行うものというべきであり、したがつて、原告の例会は入場税法第二条の「「催物」に該当し、原告が会員から納入を受けた会費は、同法第二条にいう「入場の対価」たる性質をも有する(会費が全く「入場の対価」自体であるというわけではない)ものということができる。したがつて、原告の前記主張も採用できない。そして、本件例会が特に右のような原告の通常の例会と異る性質のものであつたことを認めるべき証拠は何もない。

結論

以上のとおりで、本件処分には原告が主張するような違法事由はなく、他に本件処分に違法な瑕疵があるという主張、証拠はないから、原告の本訴請求は理由がない。

よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺井忠 裁判官松本光雄、同富塚圭介は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 寺井忠)

別表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例